心肺運動負荷試験(Cardiopulmonary Exercise Test:CPX) 【目的・対象】 近年,呼気ガス分析を併用したCPXで非観血的に求められるATが,運動耐容能の指標として,さらに運動療法時の運動処方や治療効果の判定などに用いられている。また, Peak V02は心疾患患者の予後予測因子として,心移植患者の適応基準として用いられている。CPXは,心臓の最も重要な役割である酸素輸送の面から運動中の心ポンプ機能解析や総合運動耐容能に多くの情報を提供する。 Kavanagh T, Mertens DJ, Hamm LF, Beyene J, Kennedy J, Corey P, Shephard RJ.Prediction of long-term prognosis in 12 169 men referred for cardiac rehabilitation. Circulation. 2002 Aug 6;106(6):666-71 Stelken AM, Younis LT, Jennison SH, Miller DD, Miller LW, Shaw LJ, Kargl D, Chaitman BR. Prognostic value of cardiopulmonary exercise testing using percent achieved of predicted peak oxygen uptake for patients with ischemic and dilated cardiomyopathy. J Am Coll Cardiol. 1996 Feb;27(2):345-52. Mancini DM, Eisen H,
Kussmaul W, et al. Value of peak exercise oxygen consumption for optimal
timing of cardiac transplantation in ambulatory patients with heart failure. Circulation.
1991; 83: 778–786.[Abstract]
【方法・施行状態】
エルゴメータでの心肺運動負荷試験風景 【解析方法】
検査時の実際の画面 【心肺運動負荷試験で得られる指標と心機能】 《嫌気性代謝閾値Anaerobic Threshold:AT》 ATとは1964年Wassermannらが提唱した概念であり,通常,嫌気性代謝閾値または無酸素性作業閾値と訳されている。漸増負荷運動に伴い活動筋への酸素供給が不足してくると嫌気性代謝が亢進し,血中の乳酸値が安静時レベルをこえて上昇する。この乳酸の上昇による代謝性アシドーシス,およびそれに伴う二酸化炭素排泄ならびに換気量の増加がおこる運動強度あるいは酸素摂取量を嫌気性代謝閾値と定義されている。 Wasserman,K.: Detecting the threshold of anaerobic metabolism in cardiac patients during exercise. Am. J. Cardiol., 14: 844-852,1964. 1)ATの臨床的意義 2)ATの測定と正常値
《最高酸素摂取量:Peak V02 (Maximum V02)》 被検者に運動習慣がない場合,『負荷量の増加にも関わらず・V02がもはや増加しなくなった時点(leveling off)のV02』と定義されている最大酸素摂取量(maximal V02:V02max)の測定は通常困難である。そこで,その代わりに,特定の漸増運動負荷試験で得られたV02の最高値,すなわちpeak V02が用いられる。検査が検者または被検者の主観で中止されるため,客観性に欠ける欠点はあるが,心疾患の重症度とよく相関し,予後判定の指標として有用である。特に重症心不全患者の予後を良く反映するので最近では心移植の適応決定の最も重要な指標として用いられている(peak V02、<14.O ml/min/kg)。 Mancini DM, Eisen H, Kussmaul W, Mull R, Edmunds LH Jr, Wilson JR. Value of peak exercise oxygen consumption for optimal timing of cardiac transplantation in ambulatory patients with heart failure. Circulation. 1991 Mar;83(3):778-86.
VE/ VC02が持続的な上昇を始め,呼気終末二酸化炭素濃度(PETCO2)が持続的な下降を開始する点をいう。アシドーシスをC02排泄増加で,呼吸性に代償しようとする開始点で,運動負荷強度が生理学的に最大に近いレベルに達したことを示す指標である。 《VE/VC02 slope》 ramp負荷中のVO2増加に対する換気量増加の比である。VE/VC02 slopeは24〜34の範囲内にあり,VE/VC02 slopeの急峻化は,心不全に伴う肺の死腔換気率(生理学的死腔量/一回換気量)の上昇,動脈血のCO2分圧のセットポイントの低下,あるいは器質的肺疾患(慢性閉塞性肺疾患)の合併などにより生じる。 VE−VC02 slopeは運動負荷が最大負荷量や嫌気性代謝閾値に達しなくても得られるため,運動耐容能を簡便かつ安全に推測しうる指標である。また,peakVO2と有意な負の相関が示されており,生命予後規定因子としても注目されている。 Chua TP, Ponikowski P, Harrington D, Anker SD, Webb-Peploe K, Clark AL, Poole-Wilson PA, Coats AJ. Clinical correlates and prognostic significance of the ventilatory response to exercise in chronic heart failure. J Am Coll Cardiol. 1997 Jun;29(7):1585-90. 《仕事率(work rate)に対するV02増加:△V02/△WR》 Ramp負荷試験で得られる指標であり,末梢の運動筋への酸素輸送の増加度を示し,運動中の心拍出量の増加の程度に依存している。正常値は10〜11ml/min/Wで心筋虚血で心拍出量の増加不良時には低下する。また,心不全症例では末梢への酸素輸送能が低下していることがしめされている。 Itoh H, Nakamura M, Ikeda C, Yanagisawa E, Hatogai F, Iwadare M, Taniguchi K. Changes in oxygen uptake-work rate relationship as a compensatory mechanism in patients with heart failure. Jpn Circ J. 1992 May;56(5):504-508. 《酸素脈:O2pulse》 一心拍あたりの酸素運搬能力を示す指標である。Fickの式からVO2(酸素摂取量)=CO(心拍出量)×C(a-v)O2(動静脈酸素含有量較差)の式で表すことができる。COはSV(一回拍出量)とHR(心拍数)積であることから,両辺をHRで割るとO2pulse=SV×C(a-v)O2であらわすことができる。運動での末梢因子の変化が関与するために心拍出量の絶対値としては使用できないが,個人の経時的変化としては参考になる可能性がある。
《ATを至適運動強度とする理論的根拠》
《負荷プロトコールとMETs表》
上嶋健治.運動負荷試験Q&A110.南江堂.2002.より抜粋 《自覚的運動強度評価Borgスケール》
Borg13:ややきつい Borg17:かなりきつい Borg?:もうだめだ 心肺運動負荷試験はマスクをして行うために、このような指で自覚症状の程度を表現してもらっている。 《トレッドミルとエルゴメータの比較》
《運動負荷プロトコールの種類》 (1)負荷方法 一般的にはBruce法などに代表される多段階漸増負荷試験がよく用いられている。この方法は,虚血反応を誘発するにはすぐれた方法であるが,心疾患症例では運動耐容能が低いこと,呼気ガス分析の各指標の変化が急激であるため酸素動態などを検討するには不利である。これに対しWhippらにより提唱された直線的漸増負荷法(ramp負荷法)では,低い運動強度から直線的に運動強度を増加することによって,短時間で安全に必要なデータを得ることができる。さらに各指標(特にV02、HR)がほぼ直線的に変化するので,負荷中の任意の時点のV02,VE,VCO2,換気等量(VE / V02,VE / VCO2)などの推移から,容易に酸素摂取量動態を検討することができる。 (2)当院でのRamp負荷プロトコールの実際 Whipp BJ, Davis JA, Torres F, Wasserman K. A test to determine parameters of aerobic function during exercise. J Appl Physiol. 1981 Jan;50(1):217-21. 谷口興一,運動負荷テストの原理とその評価法(原書第2版).心肺運動負荷テストの基礎と臨床.江南堂,1999.
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